
憎しみの感情が具現化する幻の軍馬「ボンバ」を通じて、少年の心の闇と破壊衝動を描いた異色のスリラーマンガです。
『火の鳥』に対して贈られた講談社漫画賞(第一回講談社出版文化賞児童漫画)の受賞記念作品としてかかれた作品。
当時を振り返り手塚治虫漫画全集のあとがきで次のように書いている。
この作品を読まれたかたは、暗い、いやァな気分を味わわれたことでしょう。そう、ぼくの作品には、ある時期、なんとも陰惨で、救いのない、ニヒルなムードがあったのです。
ちょうどそれは、六〇年と七〇年安保の間の頃です。また、虫プロや虫プロ商事にトラブルが絶えず、ぼくはその収拾にかけずりまわって、新進困憊していた頃です。
ぼくはやけくそで、世の中にも、自分の仕事にも希望が持てず、どうにでもなれといった毎日だったのです。
(「手塚治虫漫画全集『ボンバ!』」より)
発表
発表日:1970年9月 – 1970年12月
出版:別冊少年マガジン 講談社
あらすじ
主人公は、内向的で気弱な中学生・男谷哲。彼は美しく優しい教師・水島礼子に淡い恋心を抱いていたが、暴力的な教師・鬼頭が彼女に求婚していることを知り、激しい憎しみを抱く。その夜、哲の心に呼応するように、巨大な幻の馬「ボンバ」が現れ、翌日鬼頭は謎の死を遂げる。
ボンバは、太平洋戦争中に哲の父が飼育していた軍馬であり、父から聞かされた記憶が哲の潜在意識に根付き、憎しみの感情が強まると幻影として現れ、対象を破壊する存在となっていた。
哲は次第に、自分の憎しみがボンバを呼び寄せていることに気づき、両親や周囲の人々に対しても憎悪を募らせていく。やがて水島先生が事故死すると、哲の心は完全に崩壊し、社会全体に対する憎しみへと変質。ボンバは東京の街で次々と惨事を引き起こし、無差別な破壊が始まる。
物語終盤では、病理学者の山之口先生がボンバの正体を探る中で、水島先生が哲に宛てた手紙を発見。哲はその手紙を読み、自らの愚かさと向き合うことになる。そして、最後にボンバは哲自身に牙を向ける。
収録されてる出版物
| タイトル | 出版社 | 発行年 | ページ数 | 判型 |
|---|---|---|---|---|
| ボンバ! 手塚治虫ダーク・アンソロジー | 立東舎 | 2019年8月24日 | 476ページ | B5 |