
妄想とメディアの暴走をテーマにした大人向けSF風刺漫画です。
「上を下へのジレッタ」は、「人間ども集まれ!」の次に「漫画サンデー」に長期連載したものです。〝ジレッタ〟という語意は別に何もありません。しいていえばディレッタントの略でしょうか。とにかく語呂があんまりよくなく、受けそうにもないタイトルです。
事実、この話は「人間ども集まれ!」にくらべて反響はさほどでもありませんでした。後半でジレッタの登場になる、というのもまどろっこしいし、主人公の門前市郎が悪役というのもマイナスでした。しかしぼくのよくかく変身ものでも、腹がへったら美人になる、というアイディアは、自分ながらまあ上出来だと思います。女性が美人になるため減食したり、カロリーをとらない、という涙ぐましい努力をパロッたものです。
この「上を下へのジレッタ」の初版本は、実業之日本社から一冊で上梓しましたが、何百ページもあるものを一冊につめこむのはしょせん無理で、後半はひどく割愛して原型をとどめなくなりました。
第二版は奇想天外社から二冊本で出るところを、版元の都合で一冊出したきりのままになってしまったので、こんどの三度目の正直が雑誌どおりです。といっても数ページほどは、はぶきましたが。
後半、富士メトロポリスとあるのは、連載当時では大阪の万国博なのです。だからジレッタ館も、たくさんある国際パビリオンのひとつにすぎなかったのです。
(手塚治虫漫画全集「上を下へのジレッタ」より)
発表
発表日:1968年8月14日 – 1969年9月10日
出版:漫画サンデー 新春特別増刊 実業之日本社
あらすじ
売れない漫画家・山辺音彦(やまべおとひこ)は、工事現場の事故で仮死状態となり、地下で発見される。彼には奇妙な能力が備わっていた——自分の妄想世界「ジレッタ」を他人に伝播させ、没入させる力である。ジレッタは特殊な超音波と脳の感応によって生まれ、電波のように拡散し、レシーバーを通じて他人にも体験させることができる。
一方、山辺の恋人・越後君子(えちごきみこ)芸名、小百合チエは、空腹時にだけ絶世の美女に変身するという特異体質を持っていた。彼女の魅力と山辺の妄想能力に目をつけたのが、野心家のテレビプロデューサー・門前市郎(もんぜんいちろう)。彼は二人を利用して、視聴者を妄想世界に引き込む新感覚番組を企画し、メディア界に革命を起こそうとする。
番組は爆発的な人気を得るが、妄想と現実の境界が崩れ、人々はジレッタに依存し始める。やがて国家までもが巻き込まれ、現実そのものが妄想に侵食されていく。門前の野望は暴走し、山辺と君子の関係も揺らぎながら、物語は妄想の果てへと突き進む。
副題
- 第1章「門前市郎 リエとの同棲を解消すること」
- 第2章「アシスタント山辺音彦 師匠の家を追んだされること」
- 第3章「山辺音彦 ビル工事場の奈落へ墜落すること」
- 第4章「かくてジレッタの世界にとびこむこと」
- 第5章「ジミー・アンドリュウス 小百合チエとランデヴーのこと」
- 第6章「日本学術会議がジレッタ現象の妄想を調査すること」
- 第7章「東京文化会館におけるカタストロフィーのこと」
- 第8章「門前市郎 次なる大計画へ転進をもくろむこと」
- 第9章「ジレッタ館 驚天動地の大賑わいとなること」
- 第10章「政商 御用金兵衛 仕掛人となること」
- 第11章「国営放送 全国へジレッタの試験電波を送ること」
- 第12章「山辺音彦の身辺に狂気の事態拡大すること」
- 第13章「かくして天地鳴動この世の終末の場」
収録されてる出版物
| タイトル | 出版社 | 発行年 | ページ数 | 判型 |
|---|---|---|---|---|
| 手塚治虫文庫全集 上を下へのジレッタ | 講談社 | 2011年4月19日 | 401ページ | 文庫 |