人間昆虫記


引用:人間昆虫記 復刊ドットコム

他人の才能を吸収してのし上がる女性の生き様を描いた、異色のピカレスク漫画でアダルト向け作品の最高傑作のひとつ。

本作では、アポロ13(ロケット事故=性的不能への揶揄)、アンネ(生理用品名、転じて月経の意)、どくとるマンボウ(北杜夫の日記エッセイ風文字)、『トラ・トラ・トラ!』(70年9月公開の米映画)といった風俗的語句や、中国の周四原則、新五カ年計画といった政治・経済用語に加えて、芥川賞、文藝春秋、京王プラザホテル、安田生命ビル、ニコン、キヤノン、ホワイトホースといった実名が使われることでフィクションでありながらも、生々しいムードを醸し出している。

この物語をかいたのは、新左翼とよばれるセクト同士の反目とか、無差別テロとか、泥沼化したベトナム、そして中国では文化大革命など、さまざまな暗いニュースが新聞、テレビなどを賑わしていた頃です。その一方では日本の高度成長は、まっしぐらにGNP世界第一位を目ざしてつっ走っていた時代です。その陰と陽の不条理な時代に、マキャベリアンとしてたくましく生きていく一人の女性をえがいてみたいと思ったのです。
(「手塚治虫漫画全集より)

発表

発表日:1970年5月9日 – 1971年2月13日
出版:プレイコミック 秋田書店

あらすじ

物語は、若き女性作家・十村十枝子(とむらとしこ)が芥川賞を受賞する場面から始まります。しかしその裏で、臼場かげりという女性が自殺を図っていた。実はこの「臼場かげり」こそが十枝子の本名であり、彼女が受賞した小説は、かつて同居していた臼場かげり(=自分)のアイデアを盗作したものだったのです。
十枝子は、女優、デザイナー、作家と次々に肩書きを変えながら、他人の才能を吸収し、まるで寄生昆虫のように成り上がっていきます。彼女に関わった人々は、次々と破滅していきますが、十枝子は冷酷にそれを利用し続けます。
やがて彼女は大企業の御曹司と結婚し、さらなる権力を手に入れようと画策しますが、過去の因縁や裏切りが彼女を追い詰めていきます。物語の終盤、彼女は「私……さみしいわ…………ふきとばされそう…………」と呟き、強さの裏にある孤独を垣間見せて幕を閉じます。

副題

大都社「ハードコミックス」以降の既刊単行本では以下の四章に分けられた。

  • 第一章「春蝉(はるぜみ)の章」
  • 第二章「浮塵子(うんか)の章」
  • 第三章「天牛(かみきり)の章」
  • 第四章「螽蟖(きりぎりす)の章」

収録されてる出版物

タイトル出版社発行年ページ数判型
人間昆虫記復刊ドットコム2018年12月27日406ページB5

登場キャラクター