
夢と友情を胸に、それぞれの道を歩んだ三人の少女が、10年の時を経て再会する——王女の身代わりとなったナスビ、バレエにすべてを懸けたタカ子、現実と向き合い支え続けたフジ子。少女たちの成長と絆を描く、波乱と感動の少女冒険ロマン。
これは、「リボンの騎士」につづくぼくの少女ものです。と同時に、いまの少女向けストーリ漫画のルーツとなった作品です。
「リボンの騎士」では、宝塚のノスタルジアということもあって、内容も絵柄も終始ファンタスティックでした。しかし、「ナスビ女王」では、三人の少女の運命の物語ということ、さまざまな要素がはいっています。バレエものあり、農村ものあり、ミステリーあり、継子いびりあり、恋模様あり……と、いまの少女漫画の持つほとんどのジャンルのもとが、この作品の中にはあります。
主人公のナスビは、はっきりいってイモネエのカッペで、どうも読者の印象がよくなく、人気ハバレリーナ志望のタカ子に集中しました。したがって、ナスビを派手に活躍させるために、王女に変貌するような筋書きにかえてしまいました。この前後にスチュアート・グレンジャー主演の「ゼンダ城の虜」というアメリカ映画を観て、その影響をうけたのでした。
(手塚治虫漫画全集「ナスビ女王」より)
発表
発表日:1954年5月 – 1955年7月
出版:少女 光文社
あらすじ
卒業式の日、東京の中学校で出会った三人の少女——谷底ナスビ、丘タカ子、雪野フジ子——は、友情の証として宝物を交換し、「次に東京に来るときは、学校のイチョウの木の下で会おう」と約束を交わす。
卒業後、バレリーナになることを夢見ていたタカ子だったが、家庭の事情からその夢を諦め、働く決意をしていた。田舎へ帰るナスビを見送る途中、偶然出会ったバレエ教師・牧英男に助けられ、バレエ公演に招待される。舞台に感動したタカ子は、やはりバレエを続けたいという思いを強くし、牧先生のもとでレッスンを受けることになる。
一方、田舎に戻ったナスビは「女王様になりたい」と夢を語る。村の大イチョウが伐採されそうになった際、「東京のイチョウを思い出すから切らないで」と訴えたことで、山の女神であるイチョウの精が動き、お稲荷様の化身・正一子(しょうかずこ)に願いを託す。正一子の神通力によって村人たちから崇められるようになったナスビだったが、「こんな女王はいやだ、東京へ行きたい」と言い出し、正一子とともに上京する。
卒業から半年後、約束のイチョウの木の下に現れたのはフジ子だけだった。そこへナスビが現れ、タカ子が誘拐されたことを告げる。二人で助けに向かうが、ナスビが身代わりとして連れ去られてしまう。
ナスビは悪人にさらわれ、香港行きの船に乗せられるが、途中で海に飛び込み、台湾近くの島に漂着。そこで出会ったのが、ポピラリヤ国の王女・カナリヤ姫だった。瓜二つの容姿を持つ二人は身代わりとなり、ナスビは王女としての生活を始める。
その頃、タカ子はバレエの主役を平目カレーと争っていた。平目夫人は裏から手を回し、娘を主役にしようと画策するが、タカ子は実力で役を勝ち取る。不景気のあおりで居候していた親戚が田舎へ引っ越すことになり、タカ子はフジ子の父の紹介で弱井商事に就職。仕事とバレエを両立させるが、そこでも平目夫人の嫌がらせが続く。落ち込むタカ子のもとに、世界的バレリーナ・パブロバが現れ、彼女の才能を認めてアメリカ行きを勧める。タカ子は新たな舞台を目指し、希望を胸に旅立つ。
一方、ナスビは王女として国政を任される。重税に苦しむ国民の姿を見たナスビは、宝物庫の財宝を分け与えるが、その中には王家の象徴「人魚のタマゴ」も含まれていた。これに気づいたゼンダ将軍は、ナスビが偽物であることを見抜き、王位を奪うために本物のカナリヤ姫を抹殺しようと画策する。
東京に戻っていたカナリヤ姫は、フジ子の父である刑事に命を救われ、フジ子とも再会。事情を知ったフジ子の父は、姫を連れてポピラリヤへ向かう。
ポピラリヤでは、王女の戴冠式が迫っていた。ナスビはゼンダ将軍の陰謀を暴こうとするが、逆に自らの正体を暴かれそうになる。ゼンダは「人魚のタマゴ」の秘密を問うが、そこへ本物のカナリヤ姫が間一髪で到着し、真の王女であることが証明される。
一方、アメリカ行きの船に乗っていたタカ子は、密航者に襲われ、パブロバの財産を守ろうとして銃撃を受けてしまう。密航者は捕まるが、タカ子は足の怪我とショックから立ち直れず、踊ることを諦める。
それから10年後。ナスビのもとにタカ子から手紙が届き、彼女は東京へ向かう。思い出のイチョウの木の下で、三人は再会を果たす。フジ子は母校の中学校で教師となり、タカ子は演者ではなく、バレエ作品を創る側へと転身していた。そして三人で観た舞台は、タカ子がナスビの冒険をもとに創作した作品——その名も『ナスビ女王』だった。
収録されてる出版物
| タイトル | 出版社 | 発行年 | ページ数 | 判型 |
|---|---|---|---|---|
| 手塚治虫文庫全集 ナスビ女王 | 講談社 | 2011年9月9日 | 430ページ | 文庫 |