
飛行機事故から奇跡的に生還した18人が「生命の石」によって命を得たことから始まる、死と再生をめぐるSFオムニバス作品です。
映画『ファイナルデスティネーション』シリーズを彷彿とさせる作品。
キキモラの2人は男性がムー、女性がウーでそれぞれの額にManとWomanの頭文字のMとWがついている。
最初の構想では18人が生き残る予定で『ダスト18』として連載されましたが、人気が振るわず6人分のエピソードで打ち切りとなり、後に2話を加えて『ダスト8』として改稿・単行本化されました。
発表
発表日:1972年1月9日 – 1972年5月14日
出版:週間少年サンデー 小学館
あらすじ(オリジナル版)
ダストNo.1
物語は、旅客機が「命の山」と呼ばれる謎の島に墜落するところから始まります。乗客は全員死亡するはずでしたが、事故の衝撃で山の岩肌が削れ、その“生命の石”のかけらを偶然手にした者たちだけが奇跡的に生還します。
生き延びた人々は、性別も年齢も職業も異なる日本人たち。彼らはそれぞれの人生を再び歩み始めますが、そこに現れるのが“命の山”の使者である妖精キキモラ。キキモラは死神の命令を受け、生命の石を持つ者からそれを回収するために人間界へと降りてきます。石を奪われれば、彼らは本来の運命通り死ぬことになります。
キキモラは2人組で、冷徹に任務を遂行する女性型のウーと、それを妨害しようとする男性型のムー。ウーは淡々と石を集めて生存者を死に導き、ムーは彼らを救おうとするが、思うようにはいきません。
ダストNo.2
阿佐みどりは、明るく快活な人気ラジオ番組のアナウンサー。飛行機事故で命を落とすはずだったが、偶然手にした“命の石”によって奇跡的に生還する。彼女はその後も変わらずリスナーに元気を届ける存在として活躍していたが、ある日、死の使者キキモラが現れ、命の石を返すよう迫る。
みどりはその申し出を拒む。彼女は、K国で無実の罪に問われ、死刑を宣告された若い学生の存在を知っていた。自らの命を使ってその理不尽な死を止めたいと願ったみどりは、キキモラに「あと1週間だけ時間がほしい」と懇願する。
キキモラはその願いを受け入れ、猶予を与える。みどりはラジオを通じて真実を訴え続け、ついに死刑の執行を止めることに成功する。そしてその瞬間、彼女の命は静かに尽きる。
ダストNo.3
寒さ厳しい冬の日、凍えながら彷徨っていたキキモラの二人は、命の石を持つ一人の人間を見つける。その人物は裕福な経営者であり、キキモラのウーに対して「この石を4億円で買えないか」と持ちかける。さらに彼は、強いカクテルを飲ませてウーを酔いつぶし、その場を離れる。
車に乗り込んだ彼は、いつからか車に乗り込んでいたムーからもう一つ命の石を譲り受ける。石を二つ手にしたことで、「ウーに一つ取られても平気だ」と浮かれ、得意げに喜ぶ。しかしその直後、調子に乗った無謀な運転によって事故を起こし、石の力とは無関係に命を落としてしまう。
ダストNo.4
田田田博士は、飛行機事故で奇跡的に生還した天才科学者。彼は命の石の力を利用し、長年かけて開発してきた電子頭脳に命を吹き込むことに成功する。
かつて離婚によってすべてを失った田田田博士は、世界に対する憎しみを募らせていた。彼は電子頭脳を使って、人類に復讐するための殺戮兵器を作り出そうとする。しかし、電子頭脳はその計画を実行するには、さらに多くの命の石の力が必要だと告げる。
田田田博士は、自らが持っていた最後の石のかけらを電子頭脳に託し、そのまま命を落とす。創造主を失った電子頭脳は、自らの存在意義を見失い、最終的に自爆してしまう。
ダストNo.5
若きレーサー・村上は、飛行機事故で奇跡的に生還した後も、命を削るようにレースに挑み続けていた。彼にとって「生きること」はすなわち「走ること」であり、死の恐怖よりもゴールラインを越える快感を求めていた。
しかし、ムーから「命の石がなくなれば死ぬ」と告げられたことで、村上は動揺し、走りに精彩を欠くようになる。恐怖を振り払うため、彼は命の石を体内に埋め込む手術を受けるが、その最中にウーが現れ、石を奪ってしまう。
死を覚悟した村上だったが、居合わせたムーが予備の石を差し出し、彼は一命を取り留める。石を一度失ったことで死への恐怖が薄れ、村上は再び走りに集中できるようになる。
しかし、レース会場でウーに似たファンの少女を目にした瞬間、動揺した彼は誤ってその少女をひき殺してしまう。深い後悔の中で、村上は自らが身につけていた命の石を彼女に託し、最後のレースへと向かう。
そのレースで、村上は世界記録を大幅に更新するが彼の命は尽きていた。
ダストNo.6
鬼頭タクは、母親の遺言に従い、かつて日本兵だった父親を探すため、ボルネオのサバンナ近くへと向かう。父は敗戦後、20年間も密かにこの地に潜伏している可能性があるという。タクはアメリカ人の恋人・エミリーと共に現地を訪れるが、飛行機が不時着し、思いがけず過酷な状況に巻き込まれる。
やがて、タクは父親と再会する。しかし、父は長年の孤独と過酷な生活によって、言葉も通じず、まるで野獣のような状態になっていた。タクが母親の名前を口にしたことで、父は徐々に記憶を取り戻し、人間らしさを取り戻していく。
しかし、戦争の記憶に囚われた父は、エミリーを“敵”と認識し、彼女を殺そうとする。そこにキキモラのウーが現れ、命の石を持つタクの命を奪おうとするが、父は咄嗟にタクをかばい、命を落とす。
父の死は、戦争によって引き裂かれた家族の再会と、命を守るための最後の選択だった。
田田田博士が開発した電子頭脳による殺戮兵器。その暴走によって、博士の娘・エリ子は命の危機にさらされていた。彼女は放射能症を患い、治療には莫大な費用が必要だった。
ムーは、ウーから命を守る“ボディガード”のような存在として働きながら、エリ子の手術費をかき集め、何度も病院に足を運んでいた。しかし、放射能症は現代の医学では治すことができず、エリ子の命は静かに蝕まれていく。
最期のとき、エリ子はムーと穏やかな会話を交わしながら、微笑みを浮かべて息を引き取る。その表情には、短くとも愛に包まれた時間への満足がにじんでいた。
そしてムーとウーの二人は、死神としての任務を放棄する決意を固める。これまで集めてきた命の石を、奪うためではなく、大切な人々へ届けるために使うことにした。
物語は、命を奪う者たちが“命を託す者”へと変わる瞬間で幕を閉じる。
単行本版について
オリジナル版とは話の順番や内容、人数設定などが大きく変わってます。
ダストNo.1
…オリジナル版 ダストNo.1
当初は生存者が20人とされていましたが、後に設定が10人に変更されたことで、力有武含む数人ののイラストは削除されました。
生存者の人数が2人多く数えられているのは、キキモラの2人が“生存者”としてカウントされているためです。
ダストNo.2
…オリジナル版 ダストNo.3
ダストNo.3
…オリジナル版 ダストNo.2
阿沙みどりの友人であるキムの国籍がK国からZ国へ変わってます。
K国が韓国を意識させるからでしょうか。。。
ダストNo.4
…オリジナル版 ダストNo.5
オリジナル版とは違い何のためにムーがお金を集めてるかわかりません。
ダストNo.5
…オリジナル版 ダストNo.4、6
オリジナル版では、エリ子は田田田博士の娘として登場し、放射能症により命を落とす悲劇的な役割を担っていましたが、単行本版では設定が変更され、エリ子は命の石を失って亡くなった女性の娘として描かれています。病気も放射能症から骨髄の難病へと変わり、石の力によって一命を取り留める展開に改められています。
こうした設定変更により、物語はつぎはぎで再構成されており、いくつか不自然な描写も見受けられます。
たとえば、単行本版ではムーとエリ子が服を着たまま体を寄せて暖を取っていたはずが、次のコマではムーが服を脱いでいるなど、描写の整合性が取れていない場面があります。
(オリジナル版でムーとエリ子が濡れた身体を寄せ合い、裸で暖を取り合っていた)
ダストNo.6
…オリジナル版 ダストNo.6
オリジナル版では、タクとエミリーは恋人同士として描かれており、父親を探すという明確な目的を持って島を訪れていました。しかし、単行本版では設定が大きく変更され、タクはパイロット、エミリーは観光に訪れた動物学者という関係に改められています。
物語も、目的を持って島へ来たのではなく、飛行機の不時着によって偶然この地に降り立ったことから始まります。また、親子の再会を軸にしたオリジナル版とは異なり、単行本版では日本兵に育てられたバタク族の子どもを中心とした物語へと再構成されています。
ダストNo.7
…オリジナル版なし
売れない貧乏画家のもとへ、命の石を回収するためにキキモラの二人が現れる。画家は命に執着することなく、静かに石を差し出そうとするが、ひとつだけ願いを口にする——「30年後、自分の絵がどうなっているかを見せてほしい」。
キキモラの超能力によって未来を覗き見ることになった画家は、30年後の世界を歩き回る。しかし、自分の絵の記録はどこにも残っておらず、誰にも知られていないことを思い知らされる。
落胆しかけたそのとき、記者会見を開いていた有名画家の言葉が耳に入る。「幼い頃、ある貧しい画家の絵に強い衝撃を受け、それがきっかけで画家を志した」と語るその姿に、貧乏画家は自分の絵が誰かの心に届いていたことを知る。
その瞬間、彼は満ち足りた表情で天へと昇っていった。
ダストNo.8
…オリジナル版 ダストNo.4
田田田博士は、単行本版では久留島博士という名前に変更され、彼が開発した電子頭脳アニーもカオリへと改名されています。物語の構造も大きく変化しており、世界を滅ぼそうとする存在が博士自身から電子頭脳へと移行しています。
また、オリジナル版で描かれていた「生命の石によってあらゆるものが動き出す」描写は、単行本版では削除されています。
ラストの展開も以下の通り変更されています。
生命の石を集め終えて戻ってきたキキモラの二人。
しかし、石の存在はあまりにも多くの人々に知れ渡ってしまっていた。
死神はそもそも飛行機が墜落しなければこんなことにならなかったと時間を巻き戻す。
そして物語は、何も起こらなかった世界へと戻り、めでたく幕を閉じる。
収録されてる出版物
| タイトル | 出版社 | 発行年 | ページ数 | 判型 |
|---|---|---|---|---|
| ダスト8 | 秋田書店 | 1996年6月10日 | 352ページ | 文庫 |
| ダスト18 | 立東舎 | 2018年7月13日 | 404ページ | B5 |